「Porca Miseria!」発売記念LIVE

2008年5月23日(金) 大阪 梅田 Rain Dogs


 東京流れ者会大阪編 Vol.15.5
 ヨタロウwithメトローマンス・ホテル
 1st ALBUM「Porca Miseria!」発売記念LIVE
 2008年5月23日(金)
 大阪 梅田 Rain Dogs
Musician
 伊藤ヨタロウ(Vocal)
 Alan Patton(Accordion,Musical saw)
 岩原"abdul"智(Bass,Tuba)
 Chaco(Drums)
 斉藤トオル(Guitar,Mandolin,Piano)
 ホールズ(三線,Guitar)  &HONZI (Violin)
Guest Musician
 Maia Barouh(Flute,Chorus,Percussion)
 瀬戸信行fromフレイレフ・ジャンボリー(Clarinet)
 山口涼子fromフレイレフ・ジャンボリー(Violin)

Setlist
Part1
 1 Passacaglia(with Cl:瀬戸)
 2 えんどうの花(Vo:ホールズ)
 3 すり傷BOY
 4 犬
 5 沖縄恋唄(Vo:ホールズ)
 6 Dzselem Dzselem(Vo:Maia)
 7 曲目不詳
 8 菊珠丸の唄(with Cl:瀬戸)
Part2
 9 曲目不詳(Musical saw:Alan)
 10 translation(Acc:Alan)
 11 散骨の唄(with Cl:瀬戸)
 12 あなたを自由にする方法(Vo:chaco)
 13 ちょんちょんきじむなー(Vo:ホールズ)
 14 レーニンの三輪車(Vo:Alan)
 15 ケガレのテーマ
 16 愚かなる者に降る雨は(with Vn:山口)
 17 薔薇より赤い心臓の唄(with Vn:山口)
 18 El Borracho(with Cl:瀬戸,Vn:山口)
Encore
 19 吟遊詩人の唄
  Birthday Celebration for Allan&ホールズ
 20 風のひと
 21 St.AGNES
  (Voの記載のないものはすべてヨタロウ)


Live Report-和製ジプシー・キャラバン大阪綺譚
 「何処から流れ着いたのかひとりふたりと増え始め、二年もしないうちに廃墟同然のメトローマンス・ホテルには得体の知れない連中が数十人は棲みついていた。」
(伊藤ヨタロウ「凛坊島」『東京百景』NHK出版,1994)

 構想14年、新譜「ポルカ・ミゼーリア!」を引っ提げて、大阪に向かうキャラバンが編成された。チューバや三線を担いだホテルの住人と、美麗な歌姫とが連れ立っての跋山渉水。東京の町工場街を抜け、サバニを漕いで島に渡り、シャンソン酒場の路地裏を彷徨い、馬車に揺られて砂漠を越え、針葉樹林を三輪車で駆け、「大阪でライヴをするならここで」と言い遺したHONZIに先導されて梅田RAIN DOGSへ。「Passacaglia」に合わせて演奏者がチンドン風に登場し、赤い天鵞絨の幕が垂れた壁面に並ぶと、会場の半分がステージになる。不測のオープニングはホールズによる沖縄民謡「えんどうの花」。沖縄の小学校で下校時に流れていた曲とのこと、寄り道だらけのライヴの幕開けに相応しい。


 一団の歌姫・マイアによるジプシー・メタル「ジェレム・ジェレム」。その歌声は民謡歌手の野太さとシャンソン歌手の繊細さを兼ね備え、フルートを轟かせるパフォーマンスは野生の表現衝動にまかされている。粗削り感を宿したそれらがアブドゥールによる多彩な音色のベースラインで束ねられ、人跡未踏の音楽表現の域に分け入りつつある演奏を目の当たりにすることができた。


 在阪クレズマーバンド"フレイレフ・ジャンボリー"とメトローマンス・ホテルの近似が気になっていたところの共演。オルタナティヴ演歌「菊珠丸の唄」では、フレイレフ瀬戸によるクラリネットがヴォーカルにからみつき、演奏を次第に加速させながら会場を音の渦に巻き込む。「阿呆」という歌詞が多用されているが、大阪弁で躊躇なく「あほ」と言われるのが得難い幸福であることに通じて、微塵の悲壮感も感じられない。第2部の「散骨の唄」のセッションも過激にして秀逸。


 「プログレ風ハスキーヴォイスの奇妙なロリポップ・ワールド」という珍妙なMCが添えられたChacoによる「あなたを自由にする方法」。「レーニンの三輪車」では、アランによって社会主義が見た夢の続きが囁かれる。さながら荘厳な鎮魂歌の如く奏でられる「愚かなる者に降る雨は」。ホテルに棲みついた住人の音が加わった「薔薇より赤い心臓の唄」、ヨタロウの独唱から始まる「風のひと」。いずれのヴォーカルもかつてより凄味が増して、ステージを共にしてきた人の残像を虚空に焼き付けるような歌われ方だった。


 ホーカシャンやThe aquariusでヨタロウが試みた場末感の漂う歌世界を起点としながら、新譜収録曲を網羅しつつ、ホテルの住人の音楽遍歴の一端を披露する構成だった。このライヴの空気感は、ライヴテイクを中心に編まれた新譜でも再現されている。「説明しにくいバンド」によって「国と時間を越える」ことが意図された新譜は、無国籍音楽などの既存のカテゴリーに納まらない。
いっそ、『和製ジプシー・キャラバン』という紛らわしいコピーを打って映画音楽として取り扱われ、サントラ通のリスナーに買い間違われてほしい。


 ホテルの住人は自らの身体と楽器だけで北半球の都市風景を立ち上げ、ロードムービーのように移ろう風景の中に大阪が誇るミュージシャン・HONZIの気配を結晶させた。土砂降りの雨に見舞われながら大阪を去った彼らの、名づけえぬ風景を手繰り寄せる旅は始まったばかりである。誰も聴いたことのないレクイエムを高らかに歌い飛ばしながら。

 

(2008.7.23鳥海)
(了)

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